
同じ日の、21時30分。
朝から野球をやった日の夜に、6回目のセッションが入っていた。
先生には、この日に草野球の開幕戦があることを伝えてあった。だから、始まってすぐにこう聞かれた。
「野球、どうでした?」
久しぶりの野球なのに、体が思うように動いた。バットの振りも、当たったときの感触も、走塁も、今までより良かった。
そのまま、そう伝えた。
「そういう実感ができる機会があって、羨ましいです」
先生は、そう言った。
「それに、全然変化がなかった、ということがなくて安心しました」
安心した、と先生は言った。ということは、先生のほうも気にしていたのだと思う。
そして、本題に入った。
前回の宿題は、自分の価値観や目標と向き合うことだった。1週間かけて考えて、僕が出した答えは「理想とする1週間の過ごし方」だった。
まずは、それを先生に説明した。
週3回はジムに通い、週2回はゴルフに行く。残りは家族と、自分のために使う。そして、それを本当にやろうとしたら何が必要になるのか。考えたことを、そのまま話した。
「ちゃんと考えられていますね」
そう言ってもらえた。
「それを実践するために何をしていくかを、あらためて考えていきましょう」
考えたところで終わりだと、どこかで思っていた。
週3回のジムと、週2回のゴルフ。足すと週5日で、休みは週2日しかない。あの、答えの出ないまま置いてきた話を、これから先生と一緒にやっていくことになる。
「他に、何か気づいたことはありませんか?」
そう聞かれて、話したことがひとつある。
若い頃の僕は、会社で出世したいと思っていた。仲間や部下を引っ張って、導ける人になりたかった。
もう少し具体的に言うと、40歳あたりでエリアマネージャーになっていたい、と考えていた。複数の店舗をまとめて管理する立場だ。
その40歳で、僕は転職をした。職種は同じで、勤め先が変わった。
なんとなく変化を感じ始めたのは、たぶん、そのあたりからだ。これといったきっかけがあったわけではない。
でも、今は違う。
会社の中心になりたいという気持ちが、あまりない。それよりも、自分の時間を有意義に使えるようになりたい。理想の1週間を書き出したときに出てきたのも、全部そういうものだった。
いつのまにか、目標そのものが変わっていた。
「良い気づきだと思います」
先生は、そう言った。
「目標が変わることはあります。その都度見直して、変化を見つけていくことも、重要なことです」
変わってもいい、ということだった。
これから先も、僕の目指すところはまた変わるかもしれない。それならそれで、その時に見直せばいい。
今は、週5日をやりたいことに使える生活。それをイメージして進もうと思った。
そして、もうひとつ話さなければならないことがあった。
3ヶ月で退会した、あのコミュニティのことだ。
知らない人と交流するなんて自分には無理だ、と思ってやめた。ただ、あのまま続けていたらどうなっていたんだろう、という気持ちが、ずっと残っている。
それを、正直に伝えた。
「なら、また登録してやってみましょう!」
先生の返事は、早かった。
「今のあきらさんなら、きっと行動できると思います。もしやっぱりダメだったとなっても、次の選択肢を探すきっかけになりますよ」
背中を押された、というのが正しいと思う。
ただ、僕の中の不安は消えなかった。
ここまで、なんだかんだと行動には移してこられた。トレーニングも、食事も、スポーツセンターも。それでも、あのコミュニティで自分がやっていけるかとなると、話が別だった。かなり不安だった。
それでも、何かをしないといけない。
「もう一度登録して、やってみます」
そう伝えた。
やってみます、とは言った。
ただ、始めるのはゴールデンウィークが明けてからにした。スポーツセンターに通い始めたばかりだし、連休までは仕事も忙しい。
理由は、いくらでも出てきた。



